これは難しかったね。単純だが難しい問題だ。いや単純な問題が一番難しい。実は海洋プレートの底に仕掛けがあったんだ。そこでは地震波の速度が急激に減少していて、高温で部分的に溶けたマントルが存在していると言われている。プレートはそこをするすると滑っていたんだ。どうだい、こう聞くと当たり前のようだろう? しかしそれを観測で確かめ、さらにそれを支持する岩石学的なモデルが検証できたのは、プレートテクトニクスが提唱されてから実に半世紀もたった2009年だよ。日本人を中心としたグループによる大発見だ。このようにね、聞いてみれば当たり前、という成果を出すのは思いのほか難しい。本質を見つける、ということにほかならないわけだからね。これこそがまさに、自然科学が長い歴史の中でなしてきたことだよ。
新堂教授はうれしそうに論文を持ってきた。地震波速度? マントル? 岩石学的モデル? 僕にはチンプンカンプンだ。だけど分かったことがひとつ、地震学と一口に言っても、海や陸での観測、岩石実験、そして理論などのさまざまな分野があるんだ。僕には何が一番の得意分野になるんだろう。これから何でも一生懸命勉強するぞ。
<つづく>