新堂教授の素朴な質問

大地くんはレポートを新堂教授に見てもらった。マグニチュードと震度を電球で例えるなら、それぞれワット数と明るさのようなものだ。電球の近くにいれば明るいし、遠くにいれば暗い。でも電球はずっと100Wで輝いている。ワット数はマグニチュードに、明るさは震度に置き換えられる。

今回もよくまとまっているね。じゃあテストをしよう。「ゆっくり地震」と「ゆっくり地震動」、この違いをどう説明する?

ウーン。「ゆっくり地震」とは断層での運動がゆっくりということでしょうか。つまり、断層での岩盤のずれが通常の地震に比べてゆっくり進むこと。それに対して「ゆっくり地震動」とは、ある地点で地面がゆっくり揺れることだと思います。

大正解だ。ではもうひとつ質問しよう。地震そのものの規模をあらわすマグニチュード、どういう記号を使っているか知っているかい?

マグニチュードの頭文字をとってM(大文字イタリック)です。マグニチュード7をM7と書いているのをよく見かけます。

そのとおり。阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震のマグニチュードはいくつだったかな?

気象庁のホームページにはM7.3とありました。

ところがアメリカの地質調査所(U.S. Geological Survey)はM6.9と発表した。これはどうだろう?

えっ? マグニチュードはひとつの地震に対してひとつではないのですか? 震度なら、震源に近い地域では震度4、遠くなるに従って、3、2、1などといくつも値が与えられますが...

意地悪な質問だったね。実はマグニチュードは何種類もあるんだ。どういった算出方法をとるかによって少しずつ違う値が出てくることがある。それを区別するためにMの横にアルファベットを添えるんだ。気象庁が発表するマグニチュードはMJ、Japan Meteorological Agency の最初の頭文字だ。研究者が標準的に使うのがモーメントマグニチュードで、Mwと表記される。

モーメントの頭文字でMmではないのですか?

ははは。それについては最終ページの纐纈先生による「座長リレー」を読んでごらん。モーメントマグニチュードはカリフォルニア工科大学名誉教授の金森博雄先生が1977年に考案されたものだ。それまでのさまざまなマグニチュードの決定法では物理的な意味合いが曖昧だったことや、大きな地震のときに値が頭打ちになってしまうといった問題点があったのだが、これで一気に解決したのだよ。


身近なゆえに何気なく使っていた「地震」という言葉。地震の発生後すぐに発表される「マグニチュード」と「各地の震度」。研究していくにはきっちり定義を知らないといけないんだな。ふだんの会話では「地震動」「気象庁マグニチュード」「モーメントマグニチュード」なんて使わないけれど、地震に伴うさまざまな現象の解明が進んでいくにつれて、ひとつひとつの明確な定義がなされてきたのだ。