高感度の地震観測網による研究成果を、あらたにひとつ知りました。世界中が日本の地震データに関心を寄せているのではないでしょうか。
そのとおりだよ。実際にカナダのチームが西海岸で同様の現象を発見した。日本の成果が海外に輸出された瞬間だよ。ところで、ノートに補足をしてあげよう。ひとつは、活動のタイミングだ。同じ場所で起きているのだから、互いに関連しているような気はしないかい?
そう言われれば...どれかが活動すると他が活発になる、などもわかっているのですか?
2003年8~9月には豊後水道から北東方向に移動する活発な深部低周波微動と、それに同期する短期的スロースリップイベントが発生した。この頃に同時に発生していたのが豊後水道における長期的スロースリップイベントだ。
ノートを振り返ると、まず、深部低周波微動と短期的スロースリップイベントは同じ場所で起きている。この2つのスロー地震より浅い側で起きているのが長期的スロースリップイベント。これらの活動が同じ時期に活発化した、ということですね?
そう。ではいよいよ質問だ。これらのスロー地震がプレート境界で同時に発生するメカニズムは何だろう? 火山性微動には水の存在が関与していることをヒントに考えてごらん。
みず...海洋プレートの沈み込みだから、確かに水が関係ありそうだ。プレートが沈み込むにつれて周囲の圧力は増えていく。この圧力に耐えられなくなった水分は、プレートの外、つまりプレート境界へと出ていく。これが関係していますか?
うんうん、いいぞ。これを脱水反応という。プレート境界の脱水反応が起きる領域では、摩擦が小さくなる。すると陸側のプレートはゆっくりと海側へ戻る。これが短期的スロースリップイベントと考えられている。同じ領域で、このゆっくりすべりに伴って、小さな地震である深部低周波微動や、もう少し大きい地震である深部超低周波地震が起きていると推測されているんだ。
この摩擦が小さい領域と、ガッチリ固着している領域との間で長期的スロースリップイベントが起きるんですね。プレートの境界面には多様性があるんだなあ。その中に、僕たちに発見されるのを待っている現象が、まだまだあるような気がしてきました。
地震観測網が整備されて、プレート境界で発生するさまざまな地震が発見されるようになった。それぞれのスロー地震たちが互いに関連しながら発生していることもわかってきた。これらのスロー地震が発生している領域の浅い側には、東海・東南海・南海の巨大地震発生領域がある。来るべき巨大地震とこれらスロー地震との関連は、必ずや明らかにされるだろう。