新堂教授の素朴な質問

研究室のみんなで夕食を囲む。観測の番外の楽しみだ。

初めての観測はどうだったかい?

外に出るのは気持ちがいいです。大きな山を見てその形成を調べていたら、マグマを構成している鉱物の顕微鏡写真に行きあたりました。地球科学というのは、大きかったり小さかったりする学問なのですね。

ミクロの世界もマクロの世界も、そのうち自在に行き来できるようになるさ。ところで地震と火山のもうひとつの関係を教えてあげよう。この図を見てごらん(図3)。10年前の三宅島噴火のときの震源分布だ。この場合の地震と火山の関係は何を示していると思う?

図3:2000年三宅島噴火に伴う地震活動。点は震源の位置、色は地震活動の期間を示す。震源が三宅島から北西へ移動していくのがわかる。(データ提供 酒井慎一准教授)

マグマが進むときに地殻を割って地震を起こすのでしょうか。

正解だ。この図では日を追うごとに震源が北西へ移動しているだろう。そしてその一週間後に山頂では大規模な陥没が起こり、カルデラが形成された。さあこれをどう解く?

震源位置の推移はマグマの移動をあらわしていると思います。マグマが北西へ移動していったから火口の下は空っぽになっちゃったのかな。

うん、いいね。正確には火口へのマグマの供給がなくなったためだ。三宅島の地下15kmほどの深さにはたくさんのマグマが存在している。ここから火口へ供給されていたマグマはどういうわけか北西へと方向を変えた。その様子が震源分布の時間推移に描かれている(図3)。火口へのマグマ供給がなくなったために圧力が下がり、最後まで栓のように詰まっていた山頂の物質が陥没して、カルデラを形成したと謎解けたわけだよ。あの時は研究所のあらゆる分野の先生達が、観測結果を持ち寄って知恵を出しあったものだ。

図4: カルデラ形成の模式図。マグマの供給が山頂の下から北西方向へと推移していくのが、震源の移動として見てる。山頂の下にあるマグマだまりへのマグマ供給がなくなり、山頂の物質が崩落してカルデラができた。(写真提供 中田節也教授)

先生も観測に行かれたのですか?

いや私は行っていないがね、この陥没に伴って崩れた所で2日前に観測をしていた先生がいたんだよ。陥没がもう数日ずれていたら大変なことになるところだった。あぶないあぶない。

緊張感を伴う観測を終えての夕食では、みんなおしゃべりだ。それにしても僕たちはなんてちっぽけなんだろう。地震も火山も、学べば学ぶほど人間の手にはおえないと痛感する。そもそも手におえるという発想が間違っているんだ。地震国・火山国に暮らす僕らには、共生しかありえない。地球の用意した日本の自然環境を間借りしているだけなんだとあらためて思いながら、僕は夕日を背にした山々を見渡した。

<つづく>