首都直下地震に関する情報発信について

明日で震災から一年を迎える.あの日を忘れないように,二度とあの悲劇を繰り返さないようにと,さまざまな情報がテレビや新聞あるいはニューメディアなどから発信されている.

一方で,今年に入ってからは特に,首都直下地震に関する報道も多くなった.インパクトのあるものは,私の所属する研究機関から出ているのだが,いったい何が起きているのかと思う.

なぜ今,首都圏なのか.東日本大震災の被災者が,首都直下地震で騒ぐ中央のこの実態を知ったら,どう思うだろうか.

首都圏に限らず,日本ではどこでもM7程度の地震は起こりうる.たとえば17年と3か月前,ほとんどの日本人は神戸で地震が起きるとは思っていなかった.でも実際に起きた.地震と火山で創られた日本列島の成り立ちを考えれば,M7程度の地震は,いつどこで起きてもおかしくはない.

「日本ではいつでもどこでも起こりうるM7程度の地震に備えましょう」と言うのは,いわば,「生活習慣病に気をつけましょう」と言うようなものだ.しかし東日本大震災の被災地は,今もまだ大量の出血が続いていて応急処置が必要な状況だろう.なぜそれを眼前にしながら,生活習慣病に気を付けましょうなどと,悠長なことが言えるのか.

「首都圏の人が備えていないから警鐘しているんだ」と答える人もいるだろう.果たしてそうだろうか.東北の地震のあと,日本中で防災グッズが売り切れた.家族や知人との絆の大切さを痛切に感じた.この時期,再びあの日を思い出すことで,それを今一度確認することができるのではないか.首都圏に舞台を移す必要がどこにあるのか.

また,ことさらに首都圏を強調したことで,他の地域では妙な安心感が生まれていないだろうか.先日友人から,「関西に転勤になった.良かった,脱出できて」というメールが届いた.あるいは車内で,「4年間は家を買わないことにした」と聞こえてきた.「日本ではいつでもどこでも起こりうるM7程度の地震」という認識からは,おおよそ遠のいたのではないだろうか.

M7程度の地震で死なない技術を,日本は持っている.つまり,日本においてM7程度の地震とは,対策さえ取れば大きく被害を減らせるものなのだ.一連の情報発信で,この事実が国民に伝わり,しかも実際に防災行動を起こさせることができただろうか.

多くの地震学者と違って,社会に出て防災活動を行う私から見れば,脅さなければ備えない,というような研究者の考え方は短絡的で稚拙だ.ずいぶんと住民を見下した考え方だ.人は,脅されたから行動を起こすのではない.大切な人,大切なものを守りたいから行動を起こすのだ.住民を信用していない,あるいは,人を理解していないこのような姿勢で,国民の防災・減災に役立つような研究ができるのか,疑問を抱いている.

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