2009年4月6日に起きたラクイラ地震の被害の拡大を巡って,2012年10月22日にイタリアの地震学者らに禁錮6年の有罪判決が言い渡されました.行政とその諮問委員会メンバーの科学者らが過失致死傷罪に問われていた裁判の判決です.これについて,現地に調査に行ったり,委員会メンバーや行政担当者,そして遺族から話を伺ったりしていましたので,私が分かっている範囲の事や,私の考えをまとめておきます.
長いので以下の7ページに分けました.
裁判に関する用語など間違えがあるかもしれません.気づいたら修正したり加筆したりします.他にも,修正すべき個所や加筆すべき情報がでてきましたら,随時編集します.重大な編集については,可能な限り,いつ,どこをどう直したかを残すようにします.
1.関連組織について
関連する組織についてまずまとめておきます.訴追された科学者は大部分が『Commissione Grande Rischi(以下,大災害委員会)』のメンバーです.大災害委員会とは,災害の種類によって決められる複数の専門家からなる政府の諮問委員会です.
この委員会のユーザーにあたるのが,『Dipartimento della Protezione Civile(以下,国家市民保護局)』です.今回は国家市民保護局が大災害委員会を招集しました.
大災害委員会へデータや情報を提供するのが,『Istituto Nazionale di Geofisica e Vulcanologia(国立地球物理学火山学研究所,以下,INGV)』です.大災害委員会メンバーのBoschi博士はこの研究機関の地震学者です.
それぞれの役割をまとめておきます.INGVが地震活動などのデータを大災害委員会に提供し,大災害委員会がそのデータの評価を行います.その上で,適切な行動指針を国家市民保護局に提案します.国家市民保護局はそれを受けて必要な対策を判断し,防災や減災に関する情報を市民に伝えます.判断の責任を持つのは国家市民保護局であり,他の組織ではありません(Selvaggiとの私信, 2012).また,避難勧告を出す権限を持っているのは国家市民保護局で,大災害委員会でもINGVでもありません(Dolceとの私信,2011).
今回,ラクイラでの大災害委員会に出席したのは,私の理解が正しければ,欠席の委員を除いた4名(Barveri, Eva, Boschi, Calvi),データ提供のために出席したSelvaggi(委員会メンバーではない),そして委員会を招集したDe BernardinisとDolceになります.他に,州の防災担当者やラクイラ市長も傍聴していたようです.