ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(3)

3.訴追された理由は『予知の失敗』ではない

さて,日本の多くのメディアが間違えた見出しで報告している,訴追の理由についてここで書いておきたいと思います.『予知失敗で禁錮6年』などという表現のまま,新聞やテレビで報道されていますが,予知の失敗ははじめから告発理由に入っていません.告訴された理由は,『地震が起きる前に,安全宣言を出したから』です.

2011年1月に,ラクイラ地震の遺族会のメンバーに会いに行きました.この時点で地震から2年近くが経過していましたが,愛する家族を失った悲しみはその時もそのままに感じられました.遺族らは2つの点において非常に憤っていました.ひとつは,地震が起こる可能性があったのに政府と委員会が『安全宣言』を発表したこと,2つめは,予知してくれなかったから裁判で訴えたと世界じゅうの人々に思われていることについてでした.

特に2点目については,「我々は予知ができないことくらい知っている」「予知ができると思っている無知の人々が裁判を起こしたと世界の笑い物にされた」といってかなり憤っていました.日本のほとんどのメディアが,予知できないで禁錮6年,といった情報で本件を議論しているのは,あの日涙ながらに想いを伝えてくれた遺族たちを再び踏みにじるようで,やめてほしいと思っています.いくつもの学会で「予知できなかったからではない」と発表してきましたし,これまであったすべての取材で報道機関に「予知できなかったからではない」ということは伝えましたが,どうしてあえて間違った情報のまま,人々に伝えるのでしょうか.見出しを立てるのは取材をしている記者さんではありませんが,こういった報道関係者のモラルもそろそろ省みるべきだと思いますし,情報を受け取る私たちも,報道機関の伝える情報について,ある程度のリテラシーを持たなければなりません.

さて訴追理由に話を戻します.地震がいつ起こるのか,どこで起こるのか,といったことは現段階の科学のレベルでは予知することはできません.ならばなぜ,安全宣言など出したのか.地震が起こるかどうかは分からないのであれば,安全宣言ではなく,念のため備えておいてください,と言うべきではないか,というのが遺族らの主張でした.まったくそのとおりだと思います.

なぜ安全宣言になったのか.次ページで考察したいと思います.

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